中央教育審議会「地方分権時代における教育委員会の在り方について」に対する意見

 

平成16年8月9日

全国都道府県教育委員会連合会

 

 教育とは、先の教育改革国民会議の最終報告にも述べられているように、「人間社会の存立基盤」であり、次代を担う子どもたちの人格形成と心身ともに健康な国民の育成を期して行われるものである。そうした意味から、教育の中立性と安定性並びに継続性の確保は極めて重要であると考えている。

 このような信念に基づき、日々教育行政に携わっているものとして、今回の諮問にあたって指摘されている問題点に対する考え方並びに各諮問項目ごとの今後あるべき方向について、次のとおり意見を表明する。

 

1 教育委員会制度の意義と役割

  教育の中立性等の確保は今日の地方分権の流れにあっても普遍的なものであり、憲法、教育基本法の要請に基づく基本理念と考える。しかし、教育委員会が人事委員会や地方労働委員会と異なり、「首長」に対する勧告や採決という準司法的機能を持たず、教育行政全体の政策決定機関であるということ、また、今日の複雑・多様化する行政課題に行政委員会方式での対応が可能かといった疑問や、教育は社会全体でとらえるべき問題であるといったことなどから、昨今、教育委員会必置規制の廃止並びに首長自らの教育行政の執行等が、主として市町村の首長サイドから主張されている。

確かに首長は地域住民に選ばれた地方自治体の最高責任者であり、教育行政を含めた地方自治全体の総括的な運用・調整権を有するものであるが、本来独任制であり、その意向により大きく行政全般の方向性が変化する可能性を包含している。

教育とは次代を担う子どもたちの人格形成を担うものであり、その意義において、その中立性は極めて重要である。すなわち、いかなる首長の下にあっても、教育行政が適正に執行される制度的保障が必要と考える。

また、教育行政には安定性・継続性も重要であり、委員が一部ずつ交替していく現行制度がこの面でも効果的であると思われる。こうした観点から教育行政の執行体制としては、今後とも首長から独立した執行機関で対応していく必要があり、それらを制度的に保障している現行制度を維持していくべきものと考える。  

そこでまず、諮問事項の第1である教育委員会制度の意義と役割についてであるが、ここでうたわれているレイマンコントロールとは、いうまでもなく、教育行政の方針決定が教育の専門家の独断に流れることのないように、社会の良識を広く教育行政に反映させる仕組みである。多様な民意を教育行政に反映していくには、合議制による十分な議論が必要と考える。複雑化・多様化する地域住民のニーズに適切に対応していくためにも、高潔で幅広い見識をもつレイマンの大所高所からの判断が必要である。また、社会常識による監視・助言機能を併せ持つ意味合いからも、今後とも現行制度を維持すべきものと考える。

しかしながら、この制度は、意思決定の遅延や責任所在の不明確さ等を招くといった一部からの批判がある。また、実態として、事務局主導で民意が反映されず、会議の形骸化や委員の名誉職化といった指摘もあるところである。

こうした制度への批判があり、改善が指摘されていることについては、同じ教育行政に携わるものとして、真摯に受止める必要があり、そのためには教育委員会制度の本来の意義・役割を果たすための委員の在り方や会議の運営等、教育委員会の活性化に向けての改善に積極的に取り組んでいく必要があると考える。

その一つとして、教育委員の人選の在り方の問題がある。教育委員は議会の同意を得て地方公共団体の長が任命するわけであるが、委員の人選は教育委員会の活性化のための重要な要素である。その人格や知識・経験等も考慮しながら幅広い人材を登用すべきであることは言うまでもない。また、教育委員会事務局との緊張関係を保つためにも、首長が人材登用に実質的に関与していくことも必要であると考える。首長が任命した教育委員がその豊富な知識と経験を活かし、民意を代表した立場で活発な教育活動を行い、施策にどう反映させていくかが大きなカギであり、その仕組みを作り上げるのが事務局の仕事ではないかと考える。

次に教育委員会会議の活性化への取組であるが、一例として、通常の定例会や臨時会とは別に協議会を開催し総合的に教育課題を議論したり、教育委員と事務局職員との意見交換等により、課題等への共通理解や情報の共有化に努め、教育委員が政策決定に積極的に参画している事例がある。また、知事や公安委員との定期的意見交換、市町村教育委員会や学校等関係施設の訪問、保護者との交流など、開かれた教育委員会づくりに積極的に取り組み、施策に反映している事例もある。教育委員会会議の内容を始めとした情報提供は、一般住民の教育に対する関心につながるとともに、教育委員会の活性化そのものにもつながっていくものである。併せて、教育委員の意見や考えがどのように施策に反映されたのか等を教育委員へフィードバックすることにより、一層の機能強化につながるものと考える。

こうした現行制度の理念や趣旨を生かし、より効果的な運用を図るための不断の検証・見直しが必要なことはいうまでもないが、それは現行制度そのものを否定するものではない。

なお、地方分権の流れの中、地方が望ましい組織の在り方を選択すべきであり、地方の自由度を束縛しているとして現行の必置規制を見直すべきとの意見もあるが、教育は国の根幹に関わるものであり、なおかつ、教育の機会均等や教育水準の確保といった点からも、制度の基準性・枠組みは、国の責務として国が明確にすべきものであって、地方に設置の判断を委ねる性格のものではない。  

しかしながら、小規模市町村においては、一律に現教育委員会制度を存続させることが難しいといった指摘もあることから、こうした市町村においては、教育委員数の弾力化や委員の公募制の導入を始め、一部事務組合、協議会、教育委員会の共同設置等の制度を活用した教育行政の共同処理や広域化を進めることも方法の一つであると考える。また、今後の課題として、一定の条件の下に教育委員会の任意設置の検討もあり得るが、その場合においても、教育の中立性・安定性・継続性を担保する制度を確立することが必要である。

2 首長と教育委員会との関係

  首長自らの政策の大きな柱として、また、選挙公約の一つとして、「教育」を掲げる首長が増えてきている。特に、生涯学習、青少年教育、文化・スポーツといった分野では、現実として、首長部局と教育委員会の二元的管理となっているところも多い。

首長部局と教育委員会が緊密に連携して大きな成果を挙げている例がある一方で、必ずしも連携がうまくいっていない事例も見受けられることが指摘されているが、教育に関するニーズや課題等は非常に多岐にわたっており、教育委員会だけで完結できるものではなく、「学校・家庭・地域の連携」という言葉に表されているように、地域住民と一体となった総合的な施策の展開が必要である。

通常、首長は、教育委員の任命を通じて、あるいは予算調整権・執行権の行使を通じて間接的に教育行政に影響を及ぼしてはいるが、より一層の両者の意思疎通を図り、地方公共団体としての調和ある運営を展開していくためにも、実務者レベルはもとより、首長と教育委員又は教育長との日常的意見交換が重要である。それにより、首長部局との緊密かつ円滑な隙間のない連携が可能となると考える。

なお、県民サービスの観点から、所管窓口を、首長部局あるいは教育委員会のどちらか一方に仕分けする必要があるという指摘があるが、学校教育分野については中立性・安定性の確保と、より高度に法制度上の枠組みが確立されていることから教育委員会が所管すべき事務であると考える。生涯学習や文化・スポーツの分野については、教育的側面が強い一方、首長のまちづくりの一環としての関わりが深く、公の施設の有効活用等、各行政分野が一体となって効率的に事業展開される面もあることから、その所管については一元化するのではなく、相互の連携を密にし、同一方向で展開していくことが適当と考える。ただし、幼稚園に関する事務については、幼保連携や幼保一元化といった動きがあるものの、やはり学校教育分野の一環としてとらえるべきと考えるため、その所管の在り方については慎重な対応が求められると言わざるを得ない。

 

3 市町村と都道府県との関係及び市町村教育委員会の在り方

  地方分権や市町村合併が進む中で、地域住民に最も身近な市町村が主体性を持ち、地域の実情に応じた教育施策を展開していくことは重要であり、その上で、国・都道府県・市町村の役割分担の明確化と連携の在り方が課題であると考えている。

  特に、義務教育における全国的な教育水準の確保と地方分権の推進との整合性をどこでとるかといった問題については、さまざまな意見があるところであるが、その調整を図っていくためには、国・都道府県・市町村が連携を保ち、協力と援助を行うことにより相補っていくことが重要であると考える。そのためには、まず、市町村教育委員会の体制強化が必要不可欠であり、その一つとして指導主事の配置を整備していく必要がある。

また、都道府県教育委員会の役割として、そうした市町村教育委員会の体制強化に対する側面的支援としての指導・助言を行うとともに、広域的見地から市町村間の調整を行うべきと考える。併せて、教員の資質の向上に係る条件整備を行うべきと考える。

  次に、小中学校の教職員の人事権を市町村へ移譲すべきであるといった指摘がある。人事権には、採用・給与の決定・異動・懲戒等の側面があるが、検討する判断材料としては採用と異動が円滑にできるかという点にあると考える。

確かに、市町村に教職員の人事権を移譲することは、市町村の独自性や課題に応じた教育行政が可能になるといったメリットが考えられる。しかしながら、義務教育に求められる教育水準の確保の点から、市町村単位という小規模での教員採用や管理職任用、人事異動等は、長期的に見ると人事の停滞や硬直化を招くことが危惧され、優秀な人材確保が困難になることが予想される。同時に、市町村間での勤務条件等の格差が生じる可能性があり、教員の意欲に影響を及ぼす恐れもある。更に、市町村で採用試験等の能力実証がどの程度可能かといった問題もあるため、市町村教育委員会や校長の意見を尊重しつつ、都道府県が人事権を担う現行制度が望ましい方法であると考える。

  ただし、中核市については、その行政能力も高く一定水準の規模もあることから、政令市同様の移譲希望も出てきている。こうした動きを尊重しながら、前向きの検討が必要と考える。ただし、その場合には、財源議論はもとより、都道府県との人事交流を含めた連携の在り方について、更なる調整が必要であると考える。

 

4 学校と教育委員会との関係及び学校の自主性・自律性の確立

  学校については、教育委員会の管理権と学校における自主的な運営との調整を図るため、これまで、教育課程の編成、入退学の許可や卒業の認定、非常勤講師の人選等の権限が付与されており、学校の自主性・自律性の確立に向けた裁量の拡大がなされているところである。今後、更に学校が自らの判断と責任で教育活動を展開し、保護者や地域住民の期待に応えていくためには、各学校が自らの教育活動について評価し、その結果に基づく不断の見直しを図るとともに、必要な教育情報を保護者や地域住民に提供することにより説明責任を果たしていくシステムを構築していく必要がある。

その一つとして、学校評議員制度の積極的な活用を図っていくとともに、学校の教育活動に対する教職員による自己評価とそれを補うものとしての外部評価制度を確立していくべきであると考える。また、地域の実態に応じて、新たに制度化された学校運営協議会による地域住民の積極的参画を導入するなど、地域に根ざした開かれた学校づくりを目指す必要があると考える。

このような学校運営体制を確立した上で、学校に対して何を権限移譲していくかを検討するべきであるが、学校の裁量権拡大は、校長等管理職が学校経営能力を有し、リーダーシップを発揮できる環境にあって初めてできるものであり、現時点では必ずしも全ての学校がそうした実態にあるものではない。したがって、権限移譲については、管理職に対する研修や校内組織体制の充実と併せて進めていくべきものと考える。

なお、人事権に係る校長裁量については、魅力的で特色ある学校づくりを目指すためにも、人間性豊かで確かな指導力を備えた教員の確保が不可欠な要素であり、そのために校長に人事権付与を望む声もあるが、結果的に学校間で教育水準の不均衡が生じる恐れがあり、慎重な対応が必要であると考える。

こうした権限の移譲は学校の自主性を高めていく上で重要であり、今後も検討していく必要があるが、それと併せて、教育委員会の学校に対する支援体制の強化をどのように図っていくかが重要な課題であると考える。